第1回P-drugワークショップが1998年12月6日(日)、アクトシティ浜松研修交流センターを会場に開催された。 主催はPーdrugネットワーク(PーNETーJ代表・津谷喜一郎)であった。当日はWHO本部医薬品アクションプログ ラムの医官であり、「P-drugマニュアル-WHOのすすめる医薬品適正使用-」(Guide to Good Prescribing : A practical manual)の原著者の一人でもあるDr.Hans V. HogerzeilがP-drugの実践についてスモールグループ ディスカッションを交えながら講演を行った。参加者は、大学で臨床薬理学を担当する医学、薬学関係者、 病院勤務医、製薬企業関係者等であった。P-drugとはPersonal drug、個人の約束処方という意味であり、ワークショップでは市場にある1万を越える 薬品の中から、どのような判断基準のもとにessetial drugs(必須医薬品)を選別し、その中から各個人がP-drug を形成し、最終的に個々の症例に対して適正な治療を選択するのかという論理的なプロセスについて解説され た。essential drugsの選別についてはevidence-based medicine(EBM)に基づいたクライテリアの必要性とともに 経済的効率化についても強調された。
さらにP-drugの形成のためには、1)診断、2)治療目標の設定、3)薬効に準じた薬物群目録の作成、4)その目 録の中からEBMに基づいた有効性、安全性、適合性、さらに経済性等のクライテリアに準じた有効な薬物群の 選択、5)最終的なP-drugの選択という5つのステップが必要であることが指摘された。また、個々の症例への対 応については模擬患者を用い、1)患者の抱える問題の明確化、2)治療目的の特定、3)選択したP-drugの適応 の確認、4)処方箋の発行、5)治療に伴う情報、指示、注意の提供、6)中止も含めた治療の経過観察の6つのス テップによりなされることが示された。
ワークショップは「薬物治療に関する教育のWHO協力センター」に指定されているオランダのグロニンゲン大学 で実際に行われている医学部の卒前教育の講義内容が基礎となったものであり、医学部高学年、特に臨床実 習を始める時期の学生に対してどのように臨床薬理学教育を行うべきかについて非常に示唆に富むものであっ た。多種の薬すべてにわたり学生に説明することは不可能に近く、例え薬理学的知識は身に付けても診断のな された個々の患者に対して、薬効を同じくする薬物群の中からどのようにして最終的な処方が決定されるべきか についての論理的な判断基準がなければ、その処方は常に場当たり的なものになってしまう恐れがある。今回 のワークショップでは、「薬物療法の論理」に焦点があてられ、学生が興味をもって授業にのぞむ教育法につい てもDr.Hogerzeilにより熱意あふれる研修が行われた。
さらにワークショップでは、大分医科大学臨床薬理学講座の中村紘一助教授より大分医科大学での臨床薬理 学教育の現状について、また浜松医科大学臨床薬理学講座の大橋京一教授より日本の臨床薬理学教育の現 状と問題点について紹介がなされた。欧米諸外国ではほぼ9割以上の大学に臨床薬理学講座が設置され、各診 療科との連係の下に教育、診療、研究が推進されているのに対し、日本ではわずかに9大学に設置されているに 過ぎず、適正な薬物療法の必要性が認識される現在、さらにその積極的な役割が期待されていることが指摘され た。Dr.Hogerzeilからも欧米での臨床薬理学講座の役割と重要性についてコメントが寄せられた。
ワークショップの終わりに、今後P-drugネットワークを母体に年一回の予定で同様のワークショップが開催され る予定であることが案内された。私にとって非常に実り多い、印象深い集いであり、今後、臨床薬理学関係者に とどまらず幅広い医療関係者、さらに製薬企業関係者の方々の参加が期待される。