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p-drug

[からだの科学 第213号(Jul. 2000): 125より]

折井孝男
東京大学医学部附属病院 病院将来計画推進室
日本医療情報学会 薬剤情報委員会委員長


 p-drugとは、Personal Drug(自分の手持ちの薬)の略である。「自分の手持ちの薬」とは、治療をすべき者(医師)が理にかない、かつ、 使い慣れた手持ちの薬剤を持ち、患者を治療するにあたり薬物療法が必要な患者に対し、日常よく遭遇するであろう疾患についてあらかじめ p-drugを選択しておき、合理的に治療をすすめることができるというものである。「自分の手持ちの薬」の中に効果のない医薬品、危険な 医薬品が入っていては意味がない。薬物療法に際し、エビデンスにもとづき、治療を行なう者がおのおの自分の薬剤を持ち、それを適正に用いる ことであるという、世界保健機関(WHO)の提唱する医薬品の適正使用をめざした治療のためのコンセプトである。

 p-drugを活用するためには、あらかじめ想定される疾病に対し、p-drugを選択することからはじまる。その選択手順としては、@診断の定義、 A治療目標の設定、B有効な薬物群のリストの作成、C定義にしたがった有効な薬物群の選択、D有効性、安全性、適合性、経済性を含んだ p-drugの選択からなる。

 次に、p-drugによる薬物治療では、薬理学的な医薬品のたんなる名称ではなく、個々の患者に対し剤形、用法・用量を 決めることから、@患者の問題の定義、A治療目標の特定、Bp-drugの適応性の確認、C処方の設計、D情報、指示、注意などの アドバイス、E治療のモニターの段階までいたる。

 p-drugは医師により異なるが、それは、医薬品の入手の難易度、費用、おのおのの医薬品集、医学的文化、情報の個人的解釈などによる多様性の ためである。そのため、p-drugを作成する際の理論は非常に重要である。

 医薬品の種類は非常に多い。個々の医薬品について、その使い方などの知識を伝達することは不可能である。教育面では、個々の医薬品に 関する知識を伝えるのではなく、問題解決を指向した「薬物療法の論理」が必要ということになる。

 エビデンスにもとづいた医療(evidence based medicine; EBM)は急速に展開されている。しかし、その一方でEBMは、患者の個別性には 重きをおかず、集団のみに適応される概念ということから、限界があるともいわれている。科学的な情報以外にも「情報バイアス」などのさまざまな 影響因子のあることがわかっている。たとえば、商業的な医薬品広告、同僚が行なっている医薬品の不適正使用、医薬品についての患者からの 要望による圧力などである。しかし、EBMは患者への適応を目標としたものであり、具体的な患者への薬物療法については漠然としている。 そこでp-drugの概念が必要となるのである。

 p-drugについては、WHOによる"Guide to Good Prescribing (GGP)"のなかでくわしく述べられている。日本においても『P-drugマニュアル− WHOのすすめる医薬品適正使用』(医学書院、1998年)として翻訳され刊行されている。
[おりい・たかお/薬剤情報学]




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