特別講演:『WHOがすすめる医薬品適正使用とP-drug』
[富山県病院薬剤師会病薬会報 2000; 84: 23-4より]

富山医科薬科大学附属病院・川上純一

 WHOにおいて“The Rational use of Drug”、医薬品適正使用という概念は1985年から導入されているが、それに伴い医薬品に 求められる要素としてこれまでの「品質」「有用性」「安全性」だけでなく、「適切な情報」「コスト(費用)」といったものも求められるようになった。 その医薬品適正使用の実現のための具体的な活動の一つが“Action Proguramme on Essential Drugs”(必須医薬品活動プログラム)である。 Essential Drugsは、はじめは開発途上国においても医療レベルを一定に保つことを目的に取り入れられたものであるが、現在では先進国も 含めて本当に必要不可欠な、有効性・安全性・経済性などに優れた医薬品のリストとして作成されている。その一環として“P-drug”という概念 が提唱されている。このP-drugとは、エビデンスに基づいて「自家薬籠中(自分の病院で採用している薬剤等)の薬」を選び、個々の患者に 適正に使用するという考え方である。

 P-drugでは効果・安全性・入手の可能性に加えてエビデンスに基づいた情報が得られることが重要となる。このP-drugを選んでいく課程では、 次のようなStepが必要であり、またこのような手順を学ばせることは、薬剤師教育の中でも重要な教育手段となる。

 ・適正な治療の手順

   Step1. 患者の問題を定義する。
   Step2. 治療目標を特定する(治療によってなにを達成したいのか)。
   Step3. P-treatmentが適切かどうか検討する(P-drugの有効性と安全性のチェック)
   Step4. 治療を開始する(P-drugの処方箋の作成)。
   Step5. 治療、指示、注意を与える。
   Step6. 治療をモニター(中止?)する。

 ・P-drugの選択方法

   Step1. 診断を定義する。
   Step2. 治療目標を特定する。
   Step3. 有効な治療群の目録(inventory)を作成する。
   Step4. 評価基準(criteria)に従って安全な薬物群を選択する。

 有効性( %)安全性( %)適合性( %)費用( %)合計(100%)
薬物群A     
薬物群B     
薬物群C     

   Step5. P-drugを選択する。

 有効性( %)安全性( %)適合性( %)費用( %)合計(100%)
薬物A     
薬物B     
薬物C     

 また、このP-drugを実践していく上でも、患者への情報提供・情報公開が一般的となっている現在では、EBMが重要となってくる。 EBMの手順は「問題の定式化」→「情報収集」→「批判的吟味」→「患者への適応」となるが、この手順を実際の個々の患者に当てはめて 具体的に実践していくことがP-drugの概念といえる。しかし、実際はいいエビデンスを手に入れることが難しいことなどの問題も多い。

 このほか、実際の大学院における授業方法やその中でいかにP-drugを選択していくかなど、我々の業務の中でもそのまま生かせるような 具体的な例で紹介していただきました。また「不適切な薬剤の使用」によって起こる問題点や、処方への薬剤師の関わり方・ポイント、患者と のコミュニケーションの重要性などいろいろな視点から見た今後の薬剤師業務のあり方・問題点など数多くのことを詳細にお話しいただきました。 最後に川上先生が留学しておられたオランダにおける薬剤師の現実を見せていただきましたが、1病院で100種以上の院内製剤を調剤しており、 さらにその製剤を薬剤師会が品質試験を行っていることや、「病院薬剤師」になるには10年以上の時間がかかるなど、薬剤師業務の違いを 見せていただきました。



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