表4 有効性・安全性・費用
有効性
多くの処方者は有効性を基準に薬物を選択し,副作用については実際に起こってから対処する.このことはあまりにも多くの患者が必要 以上に強力な薬物あるいは洗練されすぎた薬物で治療されていることを意味する(例えば,単純な感染症に広域スペクトルの抗生剤を使用). 別の問題として,P-drugの選択にあたり臨床的妥当性がほとんどないような側面にこだわっていることがある.時には臨床的にほとんど重要 ではない薬物動態的特性が強調され,多数の安価な類似薬物が存在するにもかかわらず,販売促進に利用される.安全性
P-drugを含めて,いずれの薬物にも副作用がある.工業化した社会にあっては副作用は主要な危険性(hazard)の1つである.入院患者の 10%までは副作用(ADR)に由来するとの推定もなされている.すべての薬物由来の障害が防止できるわけではないが,ほとんどは薬物ないし 用量の誤った選択が原因であり,これらは防止できる.多くの副作用についてはリスクの高い患者集団を見分けることができる.これらの集 団は常に注意すべき集団,つまり高齢者,幼小児,妊婦,また腎臓,肝臓の疾患患者であることがしばしばである.費用
有効性と安全性の基準で理想的な選択を行った薬物がもっとも高価なこともあり,経済資源の制約から不都合という場合がある.時には 少数の患者を非常に高価な薬物で治療するか,より多数の患者を理想的とはいえないものの一応は満足できる薬物で治療するかという選 択の場面もありうる.これは難しい選択であるが,多くの処方者にとっては避けて通れない.健康保険と支払の仕組も考慮すべき要因になる. 有効性と安全性の点で最善の薬物がまったく(あるいは部分的に)支払対象にならないこともあろう.患者は最善というよりは保険で賄える薬物 を希望するかもしれない.薬物の無料の配布,保険による還付制度がない場合には,患者は私設の薬局で薬物を購入しなくてはならないだろ う.あまりにも多数の薬物が処方された場合,患者はこれらの一部,あるいは少量しか購入しないかもしれない.こうした状況においては,実際 に必要で,入手でき,購入しうる薬物だけを処方するよう努めるべきである.患者でも薬剤師でもなく,処方者の立場として,もっとも重要な薬物 はどれかを決定すべきである.
(P-Drugマニュアル,医学書院,1998,35ページより)